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セメントの環境保全能力について ―理解するためのやさしいセメント化学―

セメントには、いろいろな環境保全機能を持っていますが、ここでは、主として有害重金属の固定機能について、説明しましょう。

1.セメントは、複合材料
生石灰の化学組成は、CaOですので、白色の単一材料(物質)です。セメントは、薄鼠色をした紛体で、いくつかの化合物からなる複合材料なのです。

2.セメントの組成物
主要化合物組成は、珪酸三カルシウム3CaO・SiO2(アリット)、珪酸二カルシウム2CaO・SiO2(ベリット)、アルミン酸三カルシウム3CaO・Al2O3、鉄アルミン酸四カルシウム4CaO・Al2O3・Fe2O3(セリット)、二水石膏CaSO4・2H2Oなどです。
( )内は、鉱物名称

3.セメントの水和物
これらの化合物が水と反応して、セメントの水和物として、トベルモライトという珪酸カルシウム水和物3CaO・2SiO2・3H2O、水酸化カルシウムCa(OH)2 が最も多く、アルミン酸カルシウム水和物、カルシウムサルホアルミネート水和物など、多くの種類の水和物ができます。

4.セメントの凝結、硬化
セメントは、水で混練すると直ちにセメント粒子と水が接触して、水和反応を開始します。時間の経過とともに上記した水和物が生成し、複雑に絡み合って、凝結、硬化へと進行するのです。

5.水和物による有害重金属の固定化メカニズム
5.1難溶性水酸化物の生成による固定
処理対象物に含有する有害物質を固定化する場合に、石灰類、セメント類を使用すると水中に水酸化イオン濃度[OH-]が増大し、液相がアルカリ性を呈すると、水中に溶存している金属イオン[M+] は、M++OH- →MOHの反応によって、難溶性水酸化物を生成し沈殿します。このようにして生成した水酸化物は、難溶性であるため、液相中に溶け出す金属イオンの濃度は、大幅に低減できます。このメカニズムによりAg As Cd Cu Pb Znなどの有害重金属は処理されています。一般に水酸化物沈殿効果として、知られています。
5.2置換固溶による固定
カルシウムサルホアルミネート水和物のうち、アルミン酸三硫酸カルシウム水和物(エトリンガイト)3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2Oは、セメント水和物の中で、最も多量の水を結晶水として保持することができます。たとえば、置換固溶によって6価クロム
Cr6+  は、SO42-と置換固溶して、クロムエトリンガイト3CaO・Al2O3・3CaCrO4・32H2Oとして、有害重金属であるCr6+を固定することができるのです。普通ポルトランドセメントと超速硬セメントで比較すると、Cr6+ 固定能力は、普通ポルトランドセメント1㎏当たり、300㎎であるのに対して、超速硬セメントの場合は、5,000㎎です。
 エトリンガイトの特性としては、セメントの水和物の中で、最も多くの水32分子を含有します。したがいまして、水分量の多い汚泥、ヘドロなどの処理には、エトリンガイトの生成量の多いセメントが用いられます。

5.3吸着による固定
セメントによる有害物資の固定は、純化学的な固定効果のほかに、セメントの水和物生成によって、処理すべき沈殿物の内部に、固質量が増加し、その表面が著しく増大することによって、結晶の表面および内部表面への吸着容量が増加し、重金属イオンの吸着による封じ込めも併せて進行します。実験によれば、普通ポルトランドセメント1㎏当たりの総水銀の固定能力は、固定後28日で50㎎あります。

セメントの有害物質の固定能力は、いろいろなメカニズムが水和過程で複合的に発揮され、環境保全の一端を担うことができるのです。
以上